強制不妊訴訟 不当判決にともに立ち向かうプロジェクト

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2019年5月28日の仙台地方裁判所の判決について

このページでは、2019年5月28日に仙台地方裁判所で全国で最初に下された強制不妊訴訟の判決についてみていきます。

 

〇旧優生保護法の裁判までの経緯

 1996年の旧優生保護法廃止後、「優生手術に対する謝罪を求める会」が国に調査と検証(なぜ被害が起きたのかを明らかにすること)、謝罪(被害者にきちんと謝ること)と補償(謝る気持ちを表すためにお金を払うこと)を求めてきました。しかし、国は当時の手術は合法的に行われたとして、調査も検証も謝罪も補償も行いませんでした。

 「優生手術に対する謝罪を求める会」が電話相談をはじめると、宮城県の飯塚淳子さん(仮名)が1963年、16才のとき何も知らされずに子どもができなくなる手術をうけさせられたと連絡しました。2015年6月、飯塚さんは日本弁護士連合会に「わたしの人権をとりもどしてほしい」とうったえます。これをうけ、2017年2月に日弁連が、優生保護法のもとでおこなわれた手術などへの補償などをもとめる意見(※)を発表しました。

 これをニュースで知った宮城県の佐藤由美さんと義理のお姉さんの路子さん(ともに仮名)が宮城県にはたらきかけると、由美さんが15才のときに子どもができなくなる手術をした記録がみつかったのです。由美さんは国を相手に裁判をする決意をかため、新聞やテレビでいっせいに報道されました。優生保護法母体保護法に改正されてから22年が経ち、ようやく社会がこの問題に注目するようになったのです。

 現在、全国9地裁で20人の被害者が国を相手に裁判に立ち上がっています。

 

 

〇裁判の判決

 宮城県の原告の飯塚淳子さんと佐藤由美さんは、国や厚生労働大臣の違法行為(=法律に違反する悪いこと)により損害を受けたことを理由として、損害賠償金の支払いを求めていました。国の違法行為とは、具体的には次のようなものです。

 

①優生手術を受けさせられたことによる被害を回復するための法律を作らなかったこと(*1)

②旧優生保護法によって優生手術をさせていたこと(*2)

 

2019年5月28日、飯塚淳子さんと佐藤由美さんの裁判の判決が出ました。しかし、判決のではこれらの請求はいずれも棄却されてしまいました。つまり、原告の二人に対して損害賠償金を払わなくてよいという判決を出したのです。判決が言っていたことは次のようなことです。(判決の要旨は下に乗せています。)

 

①旧優生保護法違憲(=憲法に違反している)。

 「子を産み育てるかどうかを意思決定する権利は、これを希望する者にとって幸福の源泉となり得る」ことからすれば「人格的生存の根源に関わる」とし、リプロダクティブ権は憲法13条の「人格権の一内容を構成する権利として尊重されるべき」と判断されました。

 そして旧優生保護法は「個人の尊厳を踏みにじる」ものであり、「何人にとっても、リプロダクティブ権を奪うことが許されない」のは言うまでもなく「本件規定に合理性があるというのは困難である」とし、憲法13条に違反するとしました。

憲法13条のリプロダクティブ権(*6)侵害と憲法14条の平等権侵害が原告からは主張されていましたが、判決で検討されていたのはリプロダクティブ権についてのみでした。

 

②被害を回復する法律を作ることは必要不可欠であったが、必要不可欠だということが国会にとって「明白」ではなかったから、国に責任はない。

 旧優生保護法が存在していたこと、優生思想が存在していたこと、リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく司法判断も少なかったことから、「本件優生手術を受けた者が、本件優生手術の時から20年経過する前にリプロダクティブ権侵害に基づく損害賠償請求権を行使することは、現実的に困難であった」とされ、被害回復を図る法律を作る必要不可欠性は認められました。

しかし、日本においては「リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少なく(*7)本件規定及び本件立法不作為につき憲法違反の問題が生ずるとの司法判断が今までされてこなかった」ので被害回復の立法を行う必要不可欠性があることが国会にとっては明白ではなかったとの判断がされました。

 

③原告の二人が優生手術をされた日から20年がたってしまったので、損害賠償を求めることができない。

民法724条に定める除斥期間の規定は合憲であり、本件にも適用されるとの説明がなされました(*8)。

 

 

この判決に対して全国優生保護法被害弁護団は「不当判決」と判断し、以下のような声明を発表しています。

 

本日、仙台地方裁判所第2民事部は、原告らの請求を棄却するとの判決を言い渡した。この間、被害の重大性について社会的に大きく報道されるなどし、原告ら被害者は司法権による被害回復がなされるものと期待して本日を迎えたが、その期待が大きく裏切られる結果となり、憤りを抑えることができない。

この判決は、憲法13条の法意に照らし、人格権の一内容としてリプロダクティブ権が尊重されることを明らかにし、旧優生保護法が個人の尊厳を踏みにじるものであって憲法13条に違反することを初めて認めた。これは誰もがひとしく個人として尊重され生殖に関して国の干渉を許さないことを明示したものであり、この点については一定の評価が可能である。

しかし、判決は、特別立法の必要性が極めて高いとしつつ、立法内容については国会の合理的裁量に委ねられている事項であること、リプロダクティブ権をめぐる法的議論の蓄積が少ないことや現在まで司法判断もなされていないこと等を理由に、立法措置をとることが国会にとって明白ということは困難であるとして、立法不作為については国賠法上の違法は認められないと判断した。

また、除斥期間の規定は目的の正当性並びに合理性、必要性が認められるとして憲法17条に違反しないとし、手術自体の違法性に基づく国家賠償請求も認めなかった。

先般成立した優生保護法一時金支給法が被害回復には極めて不十分であることを考えても、人権救済の最後の砦である司法府が国の責任を認めなければ、原告ら被害者の今後の被害回復は困難であり、裁判所に対する信頼は失墜したと言わざるを得ない。

我々は、原告ら被害者の被害救済のため、今後も全力を挙げて戦い抜くことを表明する。

 

原告の方々も以下のように発言されています。

 

飯塚淳子さん(仮名、原告)

「裁判では、優生手術によって人生を狂わされた辛い思いを訴えました。裁判所が被害者を救ってくれると信じていたが、5月28日の判決は「不当判決」でした。」「憲法違反であると言いながら賠償責任を認めないことには、納得できません。」「憲法違反だと認められたのだから、国は私たち被害者に誠意をもって謝罪してほしいと思います。」

 

佐藤由美さん(仮名、原告)の義姉・佐藤路子さん(仮名)

「国会で、性と生殖に関する権利についての法的議論の蓄積がなかったので、立法措置をしないことの違憲性に関する司法の判断もなかったことが理由です。これは国会議員の責任で、議論が少なかったのではなく、議論に上がっても議論せずに無視し続けたのではなかったのではないでしょうか。飯塚さんと「優生手術に対する謝罪を求める会」は旧厚生省・厚労省と面談しています。また、国は、国連から過去3度も補償の勧告を受けています。国会議員の関心の無さが、今回の裁判に影響したということは、私たち原告にとっては理不尽だということに尽きます。」

 

*1 より正確には以下の3つの根拠による請求:(a)憲法17条に基づく損害賠償請求権を行使するための国会の立法の不作為を理由とする国家賠償請求、(b)憲法13条等に基づく補償請求権を行使するための国家の立法の不作為を理由とする国家賠償請求、(c)厚生労働大臣が旧優生保護法改廃後、被害者の被害救済のための措置を講じるべきだったのにそれを怠った政策遂行上の不作為を理由とする国家賠償請求。

*2 より正確には厚生大臣違憲違法な優生手術の実施を阻止する義務に違反したことに基づく国家賠償請求。

*3 より正確には以下の通り:①絶対的立法不作為に関する、国家賠償法1条1項の違法性の判断基準については、平成17条判決後段基準(*4)を用いる。②リプロダクティブ権が憲法13条の法意に照らし人格権の一内容を構成する権利であるとし、旧優生保護法の各優生条項はこれに反し違憲である(憲法適合性)。③立法不作為及び厚生労働大臣の政策遂行上の不作為は国家賠償法上違法ではない。平成17年判決後段基準のうち、立法が必要不可欠であることは認めるが、それが明白であったとはいえないためである(*5)。

*4 平成17年判決とはいわゆる在外投票制度違憲判決である。この判決における基準は前段部分の相対的立法の不作為(=ある法律の規定が存在し、それが違憲であるのに、これを改廃しない場合)と後段部分の絶対的立法の不作為(=憲法上必要とされる立法がそもそもない場合)に分けて論じられると理解される。原告らは国会と厚生労働大臣の絶対的不作為の国賠法上の違法性を訴えていた。

*5 平成17年判決の後段基準から導かれる要件事実は以下の4つ:(a)原告が憲法上保障されている権利を有している事実、(b)(a)の権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠である事実、(c)(b)が明白である事実、(d)国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠った事実。

*6 リプロダクティブ権は、「もともと産む・産まないの自己決定を主張する女性運動から生まれたもので、人口抑制のために危険な方法による避妊や中絶、不妊手術を強いられているアジア・アフリカの女性を支援し、そうした状況をもたらした国連人口政策に反対する80年代のフェミニストの国連的運動を通じて」、広まった概念。(松原2000)

*7 1996年に旧優生保護法母体保護法に改正された際の付帯決議として以下のようなもの文言がある「この法律の改正を機会に、国連の国際人口・開発会議で採択された行動計画及び第4回世界女性会議で採択された行動綱領を踏まえ、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康・権利)の観点から、女性の健康等に関わる施策に総合的な検討を加え、適切な措置を講じること」。ちなみに1996年の法律の改正時においてすでに被害者の98%は除斥期間の適用により国家賠償請求することが不可能であった。

*8 本件において原告側は、除斥期間の規定を優生手術の被害者の類型に適用することを違憲とする適用違憲を主張していた。これに対しては立法の必要不可欠性が認められ、除斥期間の規定が合憲であるという理由から認められなかった。原告側の主張する適用違憲の手法を利用するのかについての明確な判断は判決の中でされていない。

 

【参考文献】

米本昌平等『優生学と人間社会』(講談社現代新書、2000年) 

優生手術に対する謝罪を求める会『優生保護法が犯した罪: 子どもをもつことを奪われた人々の証言』 (現代書館、2003年)

新里宏二「不妊手術強制 万感の怒りをこめた提訴」『世界2018年1月号』(岩波書店2018)

三浦じゅん「仙台地裁令和元年5月28日の評価と控訴審における今後の展開」『法学セミナー』2019年8月号pp.28-36

「当事者・支援者の声」『法学セミナー』2019年8月号pp.25-27